霧のブルノエアポート

チェコのブルノを拠点に浴びた芸術などについて記録。

ダンスしてくださいヴァンパイア─ミュージカル『ダンスオブヴァンパイア』 コペンハーゲン/新劇場

ドイツ版TdVの記事でコペンハーゲン公演「検討します」と言ってたデンマークTdV、行ってきました。

先月末大阪で熱狂のうちに幕をとじたTdV、それを引き継ぐように1月23日からデンマークコペンハーゲンでも公演が始まりました。デンマークでの公演はこれが初。ロンドンで9公演観た直後だしなあと思ったんですが、ウィーンミュージカルは演出が国によってだいぶかわるので見比べたいと思って足を延ばした。本当は8日に某ミュージカルのパリ公演も観る予定だったんですが……。

演出家の肩をつかんで前後に揺さぶりたくなった。演出意図が知りたい。

物凄くよかった演者もいたし、いい意味で意表を突く演出もあったし最後はそれでちょっと泣かされたりもしたのだけど、全体的には「びっくり」そして「がっかり」な点が多い……。ネガティブなことが多めの記事になることをお許しください。

 

・劇場について

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会場はコペンハーゲン中央駅付近に位置する新劇場(Det Ny Teater)。駅から徒歩10分ほどで到着する。アクセスの良さは抜群。

劇場内の雰囲気はいままで言った中でもトップクラスで好き!螺旋階段があったり豪華なシャンデリアがつってあって、TdVの雰囲気にピッタリ。あと、劇場スタッフさんの制服がめっちゃかっこいい。高級ホテルのスタッフみたい。

トイレの位置がわかりにくいのが玉に傷かもしれない。

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お城のような内部

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一応撮影したキャストボード

客席内は3階だてで、今回は一階の真ん中あたりから鑑賞したんですが……笑っちゃうくらい客席がうまってなかった。多分半分もいない。座席真っ赤。土曜ソワレなんですけど……。

チケットサイトや現地の雰囲気的に二階席三階席はある程度はけてるようでしたが、さすがに大丈夫か心配になってくる。やはりウィーンミュージカルだと演目の知名度の問題とかもあるのだろうか。後ろに座った人も英語で会話していたので国外からのお客さんもそれなりにいるのかな。公演は 4月9日まで。がんばってほしい。

 
・開幕

演出の話。まあブログタイトルの通りなんですが。

まず、ダンスが弱い。TdV的にこれ以上ない悲劇。

TdVのみどころのひとつといえば、一幕の赤いブーツと二幕の悪夢のところのヴァンパイアダンサーによる圧巻のダンス。なんですが、まさかのヴァンパイアダンサーがおらず。そんなことある……? 赤いブーツのシーンはアンサンブルが4ペアのみ登場し、ワルツっぽい振りをちょっとだけ踊るなかサラと伯爵が歌う。しかもダンサー陣はすぐはけちゃうのでしばらく二人で歌ってるだけ……。赤いブーツのダンスを楽しみにして来たのに~~!悪夢のシーンはサラとの結婚式の最中シャガールがサラを噛んでサラがヴァンパイアになっちゃった!みたいな悪夢の実演をしてました。なしではないのだろうけど、ダンス、みたかった……。

正直M3ニンニクの時点で振りの割に動きがバラッバラだったので少し嫌な予感はしていたのですが……。ヴァンパイアダンサーが出てこないとは思わないじゃん? ダンス専門チームがいないからM21永遠のダンスもいまいち迫力に欠けるし……全体的に振りが小さく見ごたえがないというか……踊って~~!!!

 

衣装は、お金をかけているのはものすごく伝わった。目をひいたのは村人衣装と舞踏会のドレス。村人はみんなルーマニアの民族衣装を着ているのでとってもカラフルで舞台上がすごく華やか。その中でマグダだけスカートが短かったりとキャラクターごとに個性があっていい。

マグダ衣装 二枚目がわかりやすい

舞踏の間のドレスはデザイナーのこだわりを感じた。全ての衣装に細かい装飾が施されていて、多分一着一着時間をかけてデザインされた衣装。伯爵も何度か衣装替えがあって力が入っていた。サラのドレスも黒に金の装飾が入っていてとてもきれい。黒? 


黒。

サラといえば赤いドレス!のイメージだったのでちょっと衝撃。私はサラが徐々に血の色である赤を纏っていくのってすごく象徴的だと思っていて、少女からレディに変えられるうえで処女性の喪失なんて意味もあるのかな~と勝手に深読みしていたりもしたので……。このシーンの伯爵の衣装はワインレッドで、心の中で逆!逆!!って叫んでました。ただ黒いドレスだと噛まれたシーンで首筋に垂れる血がきれいに見えて、これを狙ったのかなと思った。

他にもところどころここでその衣装なのはどうして?ってところが多く。演出なのか? 筆頭がM10外は自由。ここでサラも部屋着じゃなく民族衣装を着ているのですが、すると何が起こるかというと服がすごくカラフルなので赤い靴がまっっったく映えない。そもそもプレゼントされるのが赤いブーツではなく赤いハイヒールで、面積が少ないからただでさえあまり目立たないのに。しかもサラが民族衣装を着るのはこのシーンだけ。よりによって感。

 

あとは場転のしかたが煩雑だったり、セットに予算をかけられていないのを感じてしまったりもしたのだけど、再演も決まっていない中の公演だと仕方ないのだろうか。力入れるとこそこ?ってところが多々。ある程度ロングランなわけだしもう少し頑張ってほしかった。

 

 

演者に関して。アルフレートと教授が素晴らしかった。すっごくよかった。後述するラストの演出もあいまって、今回この二人の物語だったんじゃないかと思うほど。

アルフと教授 アルフは眼鏡

特にアルフは、このアルフをみれただけ来てよかったと思わせてくれるアルフレートだった。歌も申し分ないが、役作りがすごい。日本のアルフ像であるいわゆる「ヘタレ」な感じではなく(2019年版はあんまヘタレじゃなかったっぽいですが置いておいて)、むしろ少しナルシストでプライドも高そう。自分は優秀だとおもっていて自信があり、サラにも結構積極的に触れていく。……んだけど、実際ヴァンパイアに対峙したときは動けなくなるちょっとダメなタイプ。だからクロロックに誘惑されたときは自分が評価されたことが嬉しくすぐに絆されるんですね。教授には仕方なく付き合ってる感じを出しているがヘルベルトに襲われたときは必死に名前を連呼したりとなんだかんだ本音では頼りにしているんだな~というのが感じられた。

私はアルフレートが一目ぼれとはいえちょっと喋っただけの女の子をどうして命を懸けてまで助けに行こうと思えるのかよくわからなかったんですが、少なくともこのアルフはサラのためというより自分のために動いてた。恋に恋してる。『サラのために命を懸けている自分』に酔ってる感じがしました。

教授はラストに全部持ってかれた。コペンハーゲン版で他と大きく違ったラストの演出。教授はアルフがサラに噛まれた瞬間を見てるんです。アルフがヴァンプ化したのに気づいて必死にサラからアルフを取り戻そうとするんだけどできずに、手を伸ばしたアルフにも威嚇されてすごすご引き下がるしかなく。だから、フィナーレの歌いだし「我々は今勝利した人類は救われた」がめちゃくちゃ悲観的。歌詞このままだと合わないしどう訳されてるのか気になった。このパート一人でか細い照明の中歌うのですが、曲も短調にアレンジして悲し気に演奏されるので超つらい。理性が世界の希望だと必死に言い聞かせている感じだった。端々から弟子をかわいがっているのは伝わってきていたのでアルフが自分から離れていったときの表情がつらかったです。

前回ドイツで観た時は終わった後たのしかった~~!!!て感じだったのに今回は終わった後なんか……こわっ……ってなった。

 

サラもよかった!キュートで色気もしっかりあって、少々強引に迫ってくるアルフレートをしっかり翻弄していた。見たこともない世界へのあこがれや抑えられない好奇心があふれ出してくるような歌声も素敵。表情の作り方がうまく、役者さんの雰囲気に役がしっかり嵌っていた。アルフとの声の相性もぴったりでデュエットがきれいに響く。相手を邪魔しすぎず聞かせるところは聞かせる歌唱。

クロロックは人の子(人ではないけど)っぽかった。感情にすごく振り回されている。感情をくだらないと切って捨てる教授との対比になっているのだろうか。個人的にはもう少し超然としていてくれた方が好みではある。あと衣装さばきももっとジャケットをバサァッってしてほしいな~と思ったり。これも好みですね。

 

あとヘルちゃん。ヘルちゃん好きなのでヘルちゃんの話をします。

アルちゃんとヘルちゃん 風呂場のシーン

一幕ラストで登場した瞬間から所作がキュートというか魅せ方が違うというがまとっているのが夜の雰囲気で。いやまあヴァンパイアだから夜なんだけど……一人だけネオンの世界で生きてる感……(???)。アルちゃんに迫っていく姿も凄く板についているし、極めつけがフィナーレのダンス。まず衣装が多分誰よりもセクシー。大きくあいた襟にフリルがついた黒いブラウスの上からコルセットを締めており、申し訳程度の丈のホットパンツからは網タイツに包まれた信じられないほど綺麗な脚が伸びていた。ブーツのヒールは軽くみて7㎝はある。それでガシガシ踊るから何者だよ……と思ってたら、なんと役者さんがプロのドラァグクイーンとして活躍されてる方らしい!納得。


役者さんのインスタグラム 美脚……

フィナーレヘルちゃん(の脚)ばっかり見てたせいで記憶があまりない。振りがダサかったのは覚えてる。

 

 

良くも悪くも目新しい演出に出会えはしたものの、ダンスが見れなかったのが残念。今回の日本公演では舞台装置が刷新されたらしいので、近いうちにまた日本でもやるでしょう。その日を楽しみにしておこうと思います。

ではまた!