霧のブルノエアポート

チェコのブルノを拠点に浴びた芸術などについて記録。

一足お先に観てきた話─ミュージカル『アナスタシア』 ハーグ/AFASサーカス劇場

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留学が決まってからずっとヨーロッパでミュージカルを観るぞ!と意気込んでいた私、とうとうそれが叶いました!記念すべき演目は『アナスタシア』。レンタルショップでディズニーアニメに間違えられて陳列されてるアニメーションムービーNo.1(私調べ)のあの映画を舞台化したBWミュージカルです。BWで2年間もロングラン公演されたヒット作で、来年3月から日本公演*1も決定しています。私はこの時期まだチェコにいるのでみれません!観たかった……。

とか言ってたら来年6月から宙組さんでの公演が決定しましたね!*2イムリー!宝塚での公演ということは主役は男性のディミトリだし、新曲も出るらしくどんな形で『宝塚ナイズ』されて生まれ変わるのか今から楽しみ。宝塚は殆どの場合ライブビューイングかあるので本当にありがたい。

 

・劇場までの道のり

日本で観れないのならこっちで観よう、と色々調べると現在オランダの第三都市デンハーグで公演中とのこと。公演チケットは事前に公式サイトから購入して、ブルノからは飛行機がないのでウィーン発アムステルダム着のフライトで到着。なお、私はアムステルダムの方が都合が良かったのでこちらにしたがデンハーグへはロッテルダムからの方が近い。

アムステルダム中央駅からハーグの中央駅まで大体電車で50分ほど、そこからトラムに乗り換え合計で1時間30分ほどかけて劇場に到着!電車を降りるとすぐ目の前に劇場がありました。

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公演映像を流している大きな電光掲示板がお出迎え

劇場名がそのまま最寄り駅の名前になってるのでわかりやすい。もしこのブログを読んでる人で観劇希望の方がいれば、オランダ全土から劇場まで往復20€ポッキリで行けるお得チケットがあるので参考までに。

Openbaar vervoer Anastasia AFAS Circustheater

因みに劇場名がcircustheaterになっているが別にもともとサーカス用の劇場だったとかではなくてサーカスさんが作ったからサーカス劇場です。

 

・劇場内へ

予め印刷しておいたe-ticketでいざ劇場内へ、とここで嬉しいサプライズが!なんとプロダクション側の都合とやらで座席のアップグレードがあり、元々とっていた席より9列も前で観ることができた。ラッキー!

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アップグレードしてもらったチケット 元々は36列目だった

しかも新しい座席はちょうど役者さんと同じくらいの目線になるとってもいい席だった。

 

ホワイエの様子。作品に合わせた装飾がされている。

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アーニャがパリに到着するシーンで登場する桜が飾ってある

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こんなフォトロケーションも

 

こちらは物販。

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Tシャツやボールペン、モチーフチャームにファー付のキーホルダーなど比較的日本でもよく見るラインナップ。

スナック売り場にはポップコーンやポスター柄の限定タンブラーが売っていてなんだか映画館みたい。

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他にもコーヒー類やアップルパイなんかも売っていて、客席開場までの間を皆とてもゆっくり過ごしていた。

 

・開幕

客席は一階席のみのこじんまりとした劇場。センター部分の傾斜は少し緩めかな。

なぜか客席内がめちゃくちゃ寒くてそんなところを舞台に合わせなくていいのに……と思いました笑

物語の粗筋をざっくり説明すると、一家惨殺にあい死んだと思われていたロシア皇女が実は生きてたのでは?という「アナスタシア伝説」をベースに、記憶喪失の少女アーニャが詐欺師の青年ディミトリらと旅をしていくうちに本当の自分に目覚めていく話。

オランダでの公演なのでもちろん全編オランダ語オランダ語は「こんにちは」「ありがとう」「はい」「いいえ」くらいしか知らんけど、アニメーションをみてたのと楽曲をYouTubeなどで聴いておいたので結構なんとかなった。BW版の曲をふわっと和訳して頭に入れておいたのが功を奏しました。芝居パートは流石に限界があったけど気合で読み取る笑

アニメーションからの変更点が結構あるんですね。ディミトリの相棒の名前がウラジミールからヴラドになっていたり悪役が人間だったりのキャスト表をみてすぐわかるポイントだけでなく、全体的に舞台にする上で「見せ場」がわかりやすくなっていたなという印象。アーニャとディミトリもアニメーションに比べてかなり親しみやすいキャラクターになっていた。

LEDスクリーンを使っての演出については事前に(海宝さんのブログ*3で)知っていたが、実際目にするとめちゃめちゃ便利だな!という身も蓋もない感想が浮かんだ。広さに限界のある舞台上の奥行きを無理なく大きく見せられるし転換に時間がかからないのでテンポも上がって、ほんと便利だなあと。映像に頼りすぎる演出は没入感が薄れるのであまり好きではないけれど、ここまでくるともう格が違うとしか言いようがない。

それとオランダ公演は全役シングルキャストらしくびっくり。土日は普通にマチソワあるので皆さん大変そう。そんな中でもディミトリ役の人がべらぼうに歌が上手くて驚いた。調べるとドイツ公演でも既にディミトリを演じてらしたんですね。力強く伸びやかな歌声が魅力的。アーニャ役の人も繊細に聴かせるところと盛り上がるところの切り替えが上手で、2人のデュエットは聴福でした。

 

↓以下内容に大きく触れていくので日本で観劇予定かつ結末を知りたくない方は自衛をお願いします↓

 

 

アニメーションからの細かな変更点でちょっと驚いたのが、パリに向かう中列車を降りた後船には乗り換えずに徒歩で行ってたところ。本当に些細な点だけどよく歩いたな、と。

あと悪役が死なないのは大きな変更点。アニメーションでは悪役は邪悪な魔法使いでしたがグレブは普通に人間なのでそこに配慮したんだろうか。その分バックグラウンドは掘り下げてあった。父が王家一族粛清に関わっていて、父はその罪悪感から自殺したが自分は粛清を遂行しようと画策しているという設定。ソロナンバーも多く、アーニャの正体に本人よりも先に気付いたりとかなりいい役。宝塚版の2番手がグレブかヴラドか気になるところだが、グレブを推したい。キキさんのグレブみたい。

 

触れずにいられないのが衣装。この手の作品は当時のドレスを再現する分総じて衣装の見応えが素晴らしいわけだが、例に漏れず次々と素敵なドレスを着て登場するアーニャ。特にバレエ鑑賞の際の目の覚めるようなブルーのドレスが素敵!

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写真左のドレス

ここでアーニャ・ディミトリ・グレブ・マリア皇太后がそれぞれのI want songをリプライズからの四重唱があった。絶対皆好きなやつ!ってなった。

またこのシーンでは『白鳥の湖』を鑑賞しており、実際にオデット姫らのバレエダンサーが登場する。このダンスがまた見事なんですね。CATSのミストフェリーズみたいな感じ。彼ほど回らないものの。タイミングの良いことに先月ちょうど『白鳥の湖』を鑑賞していたのでみたみたこれ!という不思議な気分になった。他にもガルニエ宮やアレクサンドル三世橋などパリで実際行ったところがちょくちょく出てきて面白かったです。

 

生前のロマノフ王家の衣装が白一色なのも印象的。アーニャが記憶を取り戻す過程で度々登場するこの衣装は照明の色を綺麗に反映するので本当に亡霊やら幻影やらに見えた。

この衣装を着た冒頭付近とマリア皇太后と再会した後の二箇所で写真を撮影する場面がある。バシャって全身にフラッシュをたかれるのね。これが何故か不吉に見えて調べたところカメラのフラッシュは被弾の隠喩とも取れるそう。両シーンの後確かにアーニャは一家丸ごと襲われたりグレブに撃たれそうになったりするのであながち間違いじゃないのかも。

 

それから、グレブに銃を突きつけられながらも気丈に振る舞いその気高さで銃を下させるシーンが素晴らしかった。ここはアーニャがしっかり気迫を出さないと説得力がなくなってしまう。記憶喪失の少女アーニャでもロマノフ王家の生き残りの皇女アナスタシアでもなく、ディミトリたちと旅を続けてきた『アーニャ』がグレブの野心に打ち勝ったんだなと感じさせる演技に感嘆。

ラスト、センターで寄り添うディミトリとアーニャをバックにマリア皇太后とグレブがパリとサンクトペテルブルクで同様の演説をする。「アナスタシア探しはもうやめる」と。アナスタシア達に触れて変わった二人が同じ演説をしている対比がいいなと思った。

 

今回ミュージカル用に追加されたデュエットナンバーIn a Cloud of Thausandsをはじめ、全体的にきらきらしている作品だった。キャッチーな楽曲が多く、曲がいいだけにどこまで感情を乗せれるかでだいぶ変わる。言語がわからんでも伝わるもんは伝わるし泣くもんは泣くんだなと今回わかりました。

日本版はメインを木下さん・葵さん、海宝さん・相葉さんと陽の役者で固めてきた感じなのでかなり上手くハマるんじゃないだろうか。内海くんはちょっと未知数。なにせラケット振ってるところしか知らないもので……。

アーニャの徐々に記憶が戻っていきながら「自分」を探す感情の細かな揺れ動きを魅せるのに葵さんの表現力が光るだろうし、In My Dreamをはじめとしたビックナンバーの数々は上品で伸びやかな歌声の木下さんにぴったり!アニメーション版でディミトリを吹き替えた禅さんのヴラドもとても楽しみ。

まあ、観れないんですが。

 

 

…………気を取り直し、開幕はまだ先ですが皆さんの感想を聞くのを楽しみにしています。そしてハーグでは来年2月まで上演予定なので機会のある方は是非行ってみてください。

ではまた!

 

ティボルトはヒーローの夢を見るか?―バレエ『ロミオとジュリエット』ブルノ/ヤナーチェク劇場

ブルノに来て二度目の観劇を済ませてきた。演目は『ロミオとジュリエット』。多くの媒体で楽しむことができる作品のひとつで、ミュージカル版を三月に愛知の刈谷市総合文化センターで鑑賞しているので演目自体は今年二度目。でもバレエという形で観るのは初めてでとても面白かった。劇場は前回同様ヤナーチェク劇場です。

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白鳥の湖』の時にチケットがだいたい550円だった!と書いたが、今回なんと50ckz(約235円)だった。すごい!なぜかというと、公演30分前になるとさらに割引が大きくなるらしい。もともと学生は正規料金から50%引きだが、開幕直前は席種にかかわらずすべての席を50ckzで購入できるという仕組み。驚くべき安さ。学生に優しいというレベルではなくなってくる。

そんなわけで座らせてもらったのはなんと一階10列目!

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座席からの見え方

だいぶ下手によってるが、でも近い!!オペラグラスが必要ないくらいめちゃめちゃ近い。この近さ日本でもあまり経験がない。

 

席の良さにテンションをあげつついよいよ開幕。

今回のロミジュリは昨年刷新された新演出とのこと。これが若干現代風の演出になっていると聞いており一瞬謎の頭痛がしたが流石にロミオが既読無視したりキャピュレット邸の舞踏会でミラーボールが回ったり生き残ったベンヴォーリオの後ろでチェキ風写真のスライドショーが行われたりはしなかった。*1

 女性陣、というかキャピュレット側は中世風のドレスではなくて現代のカクテルドレスのような衣装。モンタギューチームはワンピースっぽかったり、ロミオはコートを羽織ってたりと割とカジュアルな感じ。

舞台装置は正面をのぞいた三面にかなり簡素な二階部分が設置されているだけのシンプルなもの。キャピュレット邸のシーンになると上からモダニックなシャンデリア的なもの(蛍光灯でひし形をつくってそれを組み合わせたような形)が下りてくる。ジュリエットの部屋は箱型に作ってあるセットが同じく上から降りてくるんだけど、なんか高級マンションのデザインルームみたいだった。しかも!その箱の縁にあたる部分がLEDネオンで光ってて……既視感……うーん、流行ってるんですかね……。

あとびっくりしたのはジュリエットが薬を飲んだあと前述のシャンデリアが落下してくるんですよ。大丈夫?仮面つけた怪人でてこない?

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撮影OKだったカーテンコール 目を凝らすと後ろの方にシャンデリアが転がっている

他にもキャピュレットボーイズがカラーガードのパフォーマンスをしていたり新鮮に感じる演出が多くあった。この旗がちょっとクローケンハイツを彷彿とさせる柄で複数舞台上に飛んでると威圧感がすごかったです。

 

個人的に印象に残ったのはティボルト。このティボルトはとても孤独だった。

ティボルトといえば、いつもまわりにキャピュレットの皆さんを引き連れて暴れていらっしゃるイメージなんだけど(笑)、今回はキャピュレットの中でもティボルトだけ浮いてるというか、両家の諍いの象徴に仕立てられているように見えた。死んだあとにならないとジュリエットへの恋情がわかりにくかったのもあり、キャピュレットの家に祭り上げられてただロミオたちを憎んでいる、そんなティボルト。一番強くそれを感じたのはマキューシオとの対決のシーン。モンタギュー側の人間は止めようとしたりマキューシオをかばおうと動くのにキャピュレットは上から見ているだけなんですね。ただ一人ティボルトだけがモンタギューに向かっていっていて。それが家名に踊らされているように見えました。マキューシオを刺す時も、それまで見ているだけだったキャピュレット家の一人が「刺せ!」と言わんばかりに上から凶器をよこしてくる。それに操られるままにマキューシオを殺してしまって、続いてロミオをやれとけしかけられて反対に殺されてしまう。

ミュージカル版でティボルトは「本当の俺は違う 復讐の手先なんかなりたくはなかったんだ」と歌うけどこのティボルトはそれが本当の自分の意志でないことにすら気付いていない、孤独なティボルトだった。物心つくまえから憎しみを植え付けられたティボルトに、勇気あふれるヒーローになってドラゴンをやっつけるなんて夢をみることが出来たんだろうか。

なんていろいろ考えてしまった。もともとティボルト贔屓な自覚はあるのだけど、演出や演技により引き込まれた。

 

ちなみにこの舞台には日本人の方も出演している。プリンシパルだとベンヴォーリオとキャピュレット夫人が日本人の方でした。ベンヴォーリオはとにかくかわいい!三人の中でも弟分という感じでひょこひょこした動きに目が離せず、群舞のシーンでもいつのまにか見ていた。キャピュレット夫人は線が細くて美しく、威厳も申し分ない。家と娘への愛で板挟みなのが伝わってくる名演でとても痛ましかった。

 

そして二人の最期の演出が衝撃的。もちろんいい意味で。

ロミオが毒を飲んで、まだそれが回りきっていないうちにジュリエットが目を覚ますんですよ。だからロミオにはまだ意識があって!ジュリエットがロミオに抱きつくのに助かりようがなく目の前で事切れる。そして後を追ってジュリエットも……。という流れ。

こんなパターン初めてだし再会できたのが逆につらくて悲しかった。悲しいけど、すごくいい演出でした。

 

思わずいろいろ語っちゃいました。バレエ版すごく面白かったです。ただちょいちょい演出に目を剥いたのでいつか他のバージョンもみてみたいなとおもいます。

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ではまた!

 

*1:なんのこっちゃな人は「ロミオ&ジュリエット 2019 感想」とかで調べてほしい

ブルノでの初観劇―バレエ『白鳥の湖』ブルノ/ヤナーチェク劇場

ブルノに着いて初めての観劇をしてきました!

ブルノの中心にもヤナーチェク劇場という国立歌劇場がある。読んで字のごとくモラヴィア出身の作曲家レオシュ・ヤナーチェクから名前をとった劇場である。(調べるまで知らなかったけど)。上演している演目はバレエだったりオペラだったりコンサートなんかもここで。日本だと同じ演目を数日に渡り上演するのが一般的だがチェコだと一日ごとに演目が変わる。今日はバレエ、明日はオペラなんてことは普通。日本人からするとちょっと不思議な感覚。

 

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ヤナーチェク劇場外観

・チケット購入

日本で当日券芸人だった私なのでこっちでも元気に当日券芸人。チケットオフィスは劇場内、メインエントランスから少し歩いたところにある。

開演40分前くらいに行って全然席あった。二階三列目のセンブロだった。120ckz(約550円)だった。120ckz(約550円)だった。当日学割券はこの値段らしい。安いとか学生に優しいとかそういうレベルではない。ちょっと心配になる。

 

・劇場について

劇場内は日本でいう○○劇場!みたいな感じより市民文化ホール的なのに近い雰囲気。キャパは1,383席。今まで行った劇場のなかだと愛知の刈谷市文化総合センターが近いかな。地方から遠征ばかりしているから東京の劇場に例えられなくて申し訳ない。後々知ったことには、こっちは新しいほうの劇場なんだと。いかにもヨーロッパの劇場な感じの旧劇場もすぐ隣にあるらしい。

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中に入るとドレスアップした人でいっぱい。バーカウンターでワインを受けとりロビーでゆっくりする人たちをみてちょっとドキドキする……。

客席内に入れるのは開演10分前かららしいので私もロビーでしばしぼんやり。

 

・開幕

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二階最前からの景色

今回の演目はチャイコフスキー作『白鳥の湖』。バレエはノンバーバルだから言語関係なく楽しめるのがいい。大まかなあらすじは知っている、程度の知識でしたが十分面白かったです。

最初に人間のオデット姫が悪魔のロットバルトに白鳥に変えられてしまうシーンが付いてた。わかりやすさ重視?そしてこのロットバルト、宮廷のシーンでもしょっちゅう出てくる。立ち位置は大臣みたいな感じだろうか。髪は長髪を垂らしており、詰襟の金糸が入った裾の長い黒燕尾と彼の衣装造形が結構好みでした。

二階とはいえセンブロなので全体がよく見える!特に本作の見どころのひとつである二幕の群舞は上から見たほうがフォーメーションや揃った動きを堪能できてよかった気がする。ふんわり円形に広がったチュチュが舞台全体でそろって動くのは見ごたえ抜群。この湖のシーンはスモークを焚いていて、ブルーと時折ピンクを混ぜた照明が生えてとっても幻想的でした。ここで白鳥になる呪いを解くために明日の舞踏会で貴方に愛を誓いますと約束するジークフリート王子。

三幕冒頭の王宮の舞踏会のシーンでは世界各国の衣装が丁寧に作りこまれていて目にとても楽しい。ここでロットバルトの娘オディールをオデットだと勘違いして結婚相手に選んじゃうんだけど、そのあとのオディールが思いっきりジークフリートを馬鹿にするから面白くて!最後ちょっとビンタしてた。ジークフリートについてお前さあ……間違えんなよ……と思っている節があるのでこのシーンはとってもスッキリ!

でもラストに腰を抜かしました。騙されたことに気付いて慌てて湖に戻ったジークフリートがロットバルトと戦って勝つところまではいいんだけど……そのあともオデットは白鳥のまま。悲し気に羽を動かす彼女にやるせなく手を伸ばすジークフリートの姿で幕でした。そっちか~……。

この終わり方には正直びっくり。確かに原典だとどうにもならないことを知った二人が来世で結ばれようと湖水で心中して終わるというもの。ただ、勝ったら呪いが解けてハッピーエンドって演出のほうが有名だから完全にそれと思い込んでいてショックだった。しかも心中すらしてない!来世で一緒になろうっていう気概すらないのかジークフリート!オデットはもう助からないんだぞ!と謎に王子へのもやもやを募らせていた。

 

と、最後は少しもやっとしてしまったものの公演はとっても楽しかったです!こんだけ気軽に劇場に足を運べる街に10か月もいられるなんて幸せ~!なんて言っていられるのもまだまともに授業が始まっていない今のうちかもしれませんが、とにかく幸せな時間でした。

ではまた!

初めて海外で観劇した話─オペラ『フィガロの結婚』プラハ/エステート劇場

初の海外観劇をしてきたレポートです。

今回はプラハ中心地にあるエステート劇場にて、モーツァルト作のオペラ『フィガロの結婚』を観劇。エステート劇場はモーツァルトが大変お気に召しており、『ドン・ジョバンニ』の初演が行われた場所。かの有名な公演初日ギリギリに書き上げたというエピソードはプラハでの出来事だったのです。かつてここにモーツァルトがいたというだけで背筋が伸びる思いに駆られる。

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エステート劇場外観

そんなゆかりの劇場らしく、現在もモーツァルトの作品を多く公演中。

ここだけでなくてプラハには沢山の劇場やコンサートホールが立ち並び、毎日のようにオペラ・バレエ・演劇・コンサートが行われています。なんて羨ましい。

 

・チケット購入

先日市街地行った際に劇場を発見。プラハ滞在中に一度は観劇したいと思っていたのでいそいそとチケットブースに向かった。

「9/1の『フィガロの結婚』のチケットはありますか?」

と聞くとこの辺が空いてるよ、と教えてくれる。空席はモニターで示すのではなく、ラミネートした座席表で空いてるところを指してくれるユナイテッドシネマ式。

観劇慣れしていない友人を連行しているのもあって、一番安いセカンドギャラリーを選択。お値段390ckz(約1,755円)。安い〜〜!

と思っていたら、貴方達学生?と聞かれる。

そうです、と答えるとじゃあ195ckz(約877円)よ、と。

今なんて?

モーツァルトゆかりの劇場でモーツァルト作品を千円弱で観れてしまうらしい。いいんですか?

日本でオペラを観るとなると、例えば新国の『椿姫』は最安でも5,400円。プラハ、学生に優しい……。ほくほくとチケットをチケホルにしまい込んだ。

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こちらにきて初のチケット。“Price”の部分に注目。驚異の5割引である。

 

・観劇当日

小綺麗なワンピースなどは持ってきていなかったので、普段着で恐る恐る行くと意外とカジュアルな服装の人が多くて一安心。それでも全体的にみんな着飾っている感じだったので次からはちゃんとした服装でこようと決意した。

余談だが、開演前に劇場裏口を通りかかると明らかに今から出演予定の役者さんが衣装のまま煙草を吸っていてビビり散らかす。日本だと客に見える所でそんなことしようもんなら即Twitter行きである。

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終演後の裏口の写真。終わった後も煙草吸ってる役者さんがいた。もし私が出待ち厨だったら絶対煙草片手に並ぶよなあなどとしょうもないことも考える。

開演は日曜ソワレにしては19時と遅めだったので、少し街を散策してから劇場内へ。外観からもわかるようにかなりこじんまりした印象である。調べてみるとキャパ840。池袋サンシャイン*1よりちょっと多くて梅芸DC*2 よりちょっと少ないくらい。丁度いい例えが出なかった。

セカンドギャラリー聞いていたので二階後方とかかなと思っていたら、まさかの6階でした。1783年、マリーアントワネットの首がまだ繋がっている頃に出来た伝統ある劇場なのでエレベーターなんて無粋なものはない。席まで行くのにかなりの運動を要された。

でも階ごとの天井が低いせいか体感凄く舞台に近かった。博多座の3階最前より全然近いと思う。

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6階席からの写真。公演時間外は撮影OKだった。

流石に音響は少し篭って聞こえたが、千円以下でこの位置はかなりお値打ち。

 

・開幕

歌唱はイタリア語で中央のモニターにチェコ語と英語の字幕が出る。でも正直字幕を注視しているのがもったいないくらい公演が面白い。

舞台セットはせりすらなく至極シンプルに纏まっているにも関わらず、小道具などでかなりコミカルに仕上がっている。

オペラについてはまったく造詣が深くないのでみんな歌が上手い……という知能指数2くらいの感想しか出てこないのだけれど、特に印象に残ったのは伯爵夫人の方。夫の愛が離れていく切なさを歌い上げるアリアは折れそうな心が見えるようで思わず胸が熱くなりました。

他の方の歌唱も素晴らしく公演自体のレベルの高さに目を見張るばかり。また、とっても贅沢なアンサンブルの使い方をしていて、全体を通すと出番が少しだけなのに結婚式のシーンなどでは役者が惜しみなく出てくるので重唱の厚みが凄い。幕間──といっても休憩じゃなくて緞帳が降りてきているだけの時間──にアンサンブルの皆さんがプリンシパルの扮装をして「忙しい人のための第◯幕」をやってくれたのが面白かったし意外と助かった。

だんだん千円も払ってないことが申し訳なくなってくる程素敵な公演でした。それでもこの気軽さが当たり前なくらい芸術文化が根付いてるんだろうなあ、いいなあ。

最後に一階客席からの写真を載せて、今回はここまで。

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*1:池袋サンシャイン劇場 座席数816

*2:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 座席数894