二人の世界は狭かった─ミュージカル『スリル・ミー』オストラヴァ/シアター12
『スリル・ミー』がなんとチェコであったので!観てきました!!
実際にあった事件を元にし、役者は「私」と「彼」の2人、楽器はピアノのみで進行するミニマリズムなミュージカル、スリルミー 。日本では度々再演され大変な人気を博しています。今は渡韓がアツイっぽい。
次の再演はいつだろう。田代伊礼ペアの復活を熱烈に所望します……あとこれは完全に私欲だが私は加藤私城田彼がみたい。物凄くみたい。城田私加藤彼でもいい。成河さんはCDでもなんでもいいので成河成河でやって欲しい。お願い叶えてホリえもん。(堀……文さんではない)
閑話休題。
チェコでの公演は二回目だそう。まさかチェコで観れるとは留学前露ほども思ってみなかったが、何があるかわからないものである……。
・チケット購入
劇場オフィシャルサイトから購入した。
実は今回の公演を知れたのは全くの偶然。
スリルミーがみてぇ……とシャブが切れた薬中のような状態になり、”Thrill Me Bruxelles”だの”Thrill Me London”だのヨーロッパ各都市の名前を検索してたらまさかのチェコ語サイトがヒット。チケットが残り一枚だったので一体チェコのどこの都市でやるかも確認せず購入した。幸い居住都市から電車を使い約2時間半で行ける場所だった。
お値段はなんと学割で半額になって150kč(約715円)。学割がなくてもめちゃくちゃ安い。チェコのチケ代バグレベルで安いのなんなんだろう。流石にここまで来ると物価の問題だけじゃないよなぁ……。
よく調べてみると、5月から月に一度ほどのペースでちょくちょくやっていたようで11月にはプラハでも上演したらしい。全然気付かなかった。情報を追う難しさを痛感するばかりです。なぜか平日ソワレばっかりで長期休み期間でないと行き辛いのが痛い。
・劇場について
公演があったのはチェコの第三都市、オストラヴァ。オストラヴァについてはまた追々記事を書きます。
オストラヴァにはミュージカルを上演する主な劇場が三つ(内ひとつは改装中)あるのですが今回の劇場、シアター12はその中でも一番小さいハコ。なんと、キャパ60!傍聴席か?(傍聴ではない)このキャパでスリルミーを観れるというのも今回の楽しみのひとつだった。席は唯一残っていた最前の下手端。10席×6列と一番後ろでも6列目なのでこうなってくると上下に寄った席は前方より後方の方がみやすい。正面から観れないのは残念だが一番前だし近いしもう正直スリミがみれるならなんでもよかった。
小劇場ながら中にはちゃんとしたバースペースがあり驚き。ミュージカルだとあまりドレスコード気にしなくていいことが多いんですが、この劇場だとみんなおめかししててシマッタ〜となりました。物凄く浮いた……。
中に入ると左右の通路に4席づつ補助席がでていた。こちらで補助席をみたのは初めて。だから、実際の限界のキャパは68席になる。
・番外編
今回もエリザ の時同様チェコ語一切聞き取れないのはちょっとなぁと思い少しだけ予習して行きました。せっかくなので一部を紹介。
というわけで。
99年後使える!チェコ語講座〜!!
※日本語→チェコ語→読み方になってますが間に一度訳親の英語を挟んでます
炎 oheň オヘンニュ
最高で完璧な夜 jednu vynikající noc イェドゥヌ ヴィニカシィ ノツ
契約書 smlouva スムロゥヴァ
血 krev クレフ
塩酸 kyselina キィセリナ
眼鏡 sklenice スクレニーツェ
凶器 vražedná zbraň ブラヅェードナァ ズブラーニュ
痣 znaménko ズナメーンコ
99年 99 let デヴァデサットデビェット レト
うーん、前回に輪をかけて汎用性がない。読み方を聞いた友人にも「で、これは何?」と言われてしまった。そりゃそうだ。
・開幕
やはり全スリルは小劇場でやるべきでは?
もう難しいのはわかってるんですけど。
ふたりがみていた「狭い世界」を表現するのにこれ以上ない劇場。その世界を客席で共有できるのがいい。超狭い空間で息苦しいくらいの圧迫感があるスリミ……凄い……。まず役者との距離がめちゃくちゃ近いから謎に緊張してしまう。一列目の高さと舞台の高さが同じで間は1メートルも空いてないので目の前、本当に手を伸ばすとさわれちゃう距離に来る役者……の手が血塗れだったり目の前に本がドンっと置かれたりその度にびくつくしどんどんおかしくなっていく。こわい。
歌い始めた時肉声でびっくりした。そりゃあよく考えてみればこの人数相手ならマイクはいらない。マイクがあるのと肉声だと声の質感が変わるしより生々しくなって、やっぱりこわい。マイクを通すことでより演劇、フィクションとしてのフィルターが厚くなるからあえて肉声でいい小劇場でやってそれを取っ払ったのかなと思いました。後にも書きますが今回演出がドキュメンタリー風というか、この事件が実際あったことを強調する演出だったので余計そう感じた。座席は補助席まで出ていて他の日程も全てチケットは完売しているのでやろうと思えばもう少し大きな劇場でも出来そうだし。
日本だと初演はマイクなしだったんでしょうか?100人規模だと必要なさそうではあるけど……有識者カモン。
印象的だった演出について。このミュージカルを完全にひとつのドキュメンタリーだと捉えてつくられていた。チェコ版はBW版を元にしてるので役名は「リチャード」と「ネイサン」。リチャードが彼でネイサンが私です。リチャードの弟もBW版同様「ジョン」と名前が出てくる。それだけでなく、冒頭に『これは、1924年に実際に起きた「レオポルドとローブ事件」を……』みたいなモノローグ音声が入る。全てを正しく聴き取れてはないが年数と名前は聞こえたのでそうだと思う。最後もまた『この後ネイサン・レオポルドは〜』みたいに実際の二人のその後についてが語られる。その際プロジェクターでレオポルドとローブ本人の写真が舞台上に投影されるんですが、これは結構衝撃的だった。ここまで史実に繋げるのか、と。もちろん舞台上にいる二人と写真で写されている二人は全くの別人で、だからこそこれまで90分自分たちがみていた演劇がそのまま現実世界に地続きになる感覚は面白いし、やっぱりちょっとこわい。なんだかんだラストのあの写真が一番印象に残ってるな……。
音響は本当にピアノ以外はなにもなかったです。SEもなし。本人たちのセリフ、歌とピアノ。それだけ。色々と削がれて随分ソリッドな印象を受けました。
キスシーンは軽めでしたね。
最初のところはリチャードがネイサンの顔ガッとつかんでちゅーってしてネイサンがよくわかってないうちに終わり。M15僕と組んでの許しを乞うようなキスがよかったです。あそこのネイサンめちゃくちゃこわかったけど。
役について。まずリチャードから。リチャードはとても「わかりやすかった」ので……。
まるでガキ。ネイサンの悪ノリにも一緒に付き合って一緒に遊んで楽しそうに笑う。かと思えば突然立ち上がり犯罪計画を話しはじめたりする。その表情は将来の夢を語る子供みたいにキラキラしているし。表情がくるくる変わるのも非常に子供っぽい。感情の波が激しいんですね。
基本的に芝居がかった口調で喋るのが所謂『厨二病』のようだった。クールに構えているシーンはほとんどなかったように思う。さっきまで楽しそうにしていたのに少しでもネイサンが気に入らないことをするとすぐに怒鳴りつけたり。またM12僕の眼鏡/おとなしくしろで新聞を見た瞬間からすぐに凄く怯えだすところなどもからも多少の想定外すら許容できない器量の狭さというか、本当に全て計画通りいくと信じて疑ってなかったんだなというのが感じられどうも子供っぽい。この曲、状況が進むにつれどんどんリチャードが憔悴していってこちらまでしんどくなった。やっぱりそれも、彼が「子供」に見えるからだと思う。かわいそうになってきちゃう。完全に自業自得なんだけど。
父親との関係も悪く、結局子供から抜け出せていないリチャード。契約書を破られそうになった時は物凄く焦っていた。そういう形にしておかないと不安で、「契約書」という目に見えるものに固執していたんだろう。「お前が必要だ」はネイサンを懐柔するための言葉だったにしろ、リチャードは間違いなくネイサンを必要としていた。
衣装が子供っぽさに拍車をかけていたように思う。白スーツにベージュの蝶ネクタイ、黒ベスト黒ジャケットと上はわかりやすい。対して下は七分丈のパンツに白の長靴下。パンツからそのまま靴下が出ているから足は見えていない。靴は白と黒のちょっとおしゃれな革靴。一目で上流階級の「子供」だとわかる服装。大学生よりももっと若く見えた。
で、ネイサン。いやこわいよ。
リチャードとは全く対照的に表情が全然読めない。感情の動きが少ないのか表に出てないだけなのか(単に演技力の問題なのか)。なんか、こちらに伝わってくるものが極端に少ないように感じた。リチャードよりよっぽどおかしい。さっき言った通りM12僕の眼鏡/おとなしくしろではリチャードがどんどん怯えて最終的には立てなくなるほど憔悴していくんだけどネイサンは歌っていることとは裏腹に表情はリチャードに比べずっと落ち着いてる。ネイサンにとっては想定外ではないからね。多分これは結末知ってる人が見たからそう感じたわけだけど。
キスシーンのところで少し触れたが、僕と組んでの時も怖かった。リチャードにどれだけ説得されてもキスされても全然表情が動かない……ほんと、なんなんだお前……。彼に再会して倉庫を燃やそうと言い出された時点で計画を立てはじめたのかなと思った。そのうちリチャードが人を殺そうと言い出すのもわかっていそうだし。ずっと確信犯。このなにを考えてるのかよくわらない表情で歌われるM8戻れない道はまじで恐怖。ネイサンは常に空虚で、スリルを求め続けていたんだろう。リチャードに出会ってなくても何かしらやらかしそう。
きゅ〜じゅ〜きゅ〜うねんーでの二人の顔の落差が凄かった。出来る限りネイサンから距離を取り得体の知れないものを見るように怯え切った顔のリチャードとものすごーく穏やかに微笑んでいるネイサン。ネイサンのあの顔は、満足気ではあったのだけど、完全に求めていたものが手に入ったわけではなさそうというか……。史実の通りそのあと女性と結婚したというのが全く違和感なく入ってくるなと。多分、リチャードじゃなくてもいいよね、君。
役者さんについては、歌唱がもう一つ……。声質がガサついていて少し残念でした。高い音がうまく響いておらず……全部地声で歌おうとしていたせいだろうか。
あと声量がもっと欲しかった!最前でびりびりするほどの迫力がある歌を浴びたかった……声量に関しては両方にいえることですが……。
※追記
インスタに舞台写真を発見したので貼っておきます!
こちらのポストの一枚目と三枚目が私が観たペア。放火シーンではリチャードがネイサンの手を取って火をつけさせており、『共犯』にさせている感があがっていていい。
四枚目のベッドのシーツとマットを取り払うとマットを敷くところがざっくりした網目状になっており、後半はそれを牢獄に見立てて演技していた。二人が過ごしていた空間がそのまま鳥籠になるのイイですね。縦に立てたベッドの真裏から照明をあて、格子の影を綺麗に舞台上に落としている演出も良かった。
これはまた別のポスト。
右下が実際のレオポルドとローブの写真が投影されているラストシーンになります。その上は非常に艶かしい事後シーン……笑。この2人は私が観たのとは別のペア。リチャードが上裸になってるが私が観た回ではこうなるのはネイサンだけでリチャードはタンクトップを着ていた。おそらくだが、リチャードの役者さんが中にタトゥーを入れていたのでその関係だと思う。やっぱりペアによってだいぶ変わるからもうひとつのペアもみたかったな……。
なんか、終始目線が合わないというか見ているものがズレてるふたりでした。
劇場を出た時解放感があった。あの狭いハコに飲まれていたのだと思う。本当に息詰まりしそうな空間だった。超小劇場スリミ、いいものを見たなあ。
おかわりしたいけどスケジュールがなあ……この辺やっぱり日本とかの一定の公演期間に連続でやるほうがいいですよね。おそらくこっちに日本ほど多ステ文化がないのが一因かと思うのですが。
日本版も小劇場でみたい……タイムマシンが欲しい……とりあえず来年が日本初演から10周年なのでなにかしら期待してます、よろしくホリ…ロ!