霧のブルノエアポート

チェコのブルノを拠点に浴びた芸術などについて記録。

刮目!チェコ初演エリザベート ─ミュージカル『エリザベート』プルゼニュ/DJKT新劇場

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※今回前置きがいつも以上に長いので作品内容の部分のみ読みたい方は・開幕の項まで読み飛ばして下さい

チェコエリザベートをみてきました!!

日本でも超チケ難になる程人気の、オーストリア=ハンガリー帝国皇后エリザベートの一生を描いたミュージカル『エリザベート』。来年5月から全国ツアーも決定しています。*1私はというと観たことがあるのは新演出の東宝版のみ、宝塚版は初演をDVDでみせてもらっています。

チェコでの公演があると9月末に発表があってからずっとずっと楽しみにしていた公演。私にとってはウィーンやハンガリーのブタペストとゲデレー宮殿、スイスのジュネーヴなどエリザベート本人にゆかりのある都市を回って多少なりとも理解を深めてから初めての観劇です。

エリザベートチェコで公演されるのは今回が初。つまり、チェコ初演!留学期間にちょうど初演があたるなんてラッキー!初日は11/30で年内は12/7,28,29と公演があった。

今後は1/3~5,7,2/18~20,4/25に公演があるようです。こんな感じで一作をロングランするんじゃなく長い期間を使いとびとびで公演を行っているのはチェコの劇場でよくみるパターン。もちろんこの期間はほかの作品も並行で公演される。この劇場では『ビリー・エリオット』などをやっているようだった。個人的にはいちいちセットのくみ上げとバラシが大変そうだなあとスタッフの苦労が気になる。

 

・チケット購入

チケットはオフィシャルサイトから購入。11/30のプレミアデーは一般販売されておらず、7日には予定があったので28日に観ることに。前売りの受付は10/15の10時からだったが、開始前に販売サイトをチェックしてみると……

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アラッ!?結構埋まってる!!!

どうやら劇場の公式会員に向けての先行販売があったらしく。この辺やっぱりアウトサイダーだと厳しいよなと思った。それでも最前列が空いており、この空きかたは逆に見辛いやつか……?*2と訝しがりながらも「最前でエリザ」という付加価値につられて一列目を狙うことに。

そしていよいよ一般販売開始当日、9時59分57秒にF5を力強くプッシュ!!!日本で得た技術を最大限に使い(笑)、無事に希望の席をゲット!

しかも値段が550czk(約2,620円)。やっす!!!!!帝劇で14,000円の位置ですよ。ヨーロッパあちこちでミュージカルを観てますが、物価に比例しているとはいえチェコハンガリーのチケット代は信じられないくらい安いです。*3

 

・劇場までの道のり

今回公演があったのはチェコの西側に位置するプルゼニュという街。いやどこだよ、て人はこちらの前回記事を参照にして欲しい。

公演があるのはDJKT劇場の方。ややこしいことにすぐ近くにDJKT劇場という別の劇場がある。一度間違えてそこに向かってしまい、誰もおらず軽くパニックになった。

ありがたいことに地元警察の方に助けて頂き無事劇場までたどり着けた。

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穴の開いたチーズのような外観が特徴 警察官曰く"That awful building"笑 地元民の評判は悪いよう

 

・劇場内へ

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シシィのフォトロケーション

ホワイエは「新劇場」の名に相応しくピカピカ。また、チェコ共産主義国だった時代西ボヘミア解放後のチェコ支援のためアメリカ軍がここプルゼニュに滞在していた名残か、ソビエト支配関係の展示がしてあった。

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こちらは本日のキャスト。

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物販は非常に控えめ。エリザベート関連の商品はパンフレットのみで残りは劇場のグッズが陳列してあった。記念にパンフレットを購入。45kč(約245円)。

 

・番外編

本編の感想に入る前に少しだけ。だいたいいつもヨーロッパ諸国での観劇は自分の中の日本語版の記憶を頼りに観るのですが、流石に在住4ヶ月にしてチェコ語で何言ってるかサッパリわからない!だとちょっと恥ずかしいので少しだけ予習をしていきました。

というわけで!

黄泉の国で使える!チェコ語講座〜!!(一部掲載)

日本語→チェコ語→読み方の順

皇后   Císařovna   ツィーサジョヴナ

皇帝   Císař  ツィーサジュ

死    Smrt  スメルトゥ("メル"はハッキリ発音せず詰める)

太后  Arcivévodkyně  アルヒヴェヴォルドゥキィニェ (3回くらい聞き直した)

皇太子  Arcivévoda  アルヒヴェヴォダ

ミルク  Mléko ミレーコ

卵    Vejce ヴェイツェ

オレンジ Oranžová  オランヌジョヴァー

キッチュ Kýč  キーチュ

ボート  Loď ロッドィ

これで貴方もチェコ語圏の黄泉の国に連れていかれても安心です(?)

 

・開幕

いやあの、色々すごくて。日本語の便利ワード「ヤバイ」が非常に役に立つ。やばい、いろんな意味で。

例によってゴリゴリネタバレします。ネタバレしながらじゃないと喋れない。

 

何から話しましょう、て感じですがとりあえず演出。ベースになっているのはもちろんウィーン版なのでハンガリー革命家やらあの辺の設定はない。アレがなかったのでルドルフとフランツがどうして争ってるのかがわかりにくかった。これは一部私の言語能力の問題かな。

 

さてチェコ版演出、天才!!!!!て叫びたくなる所とトンチキ〜〜ってところが両方あり……大変面白かった。あと日本じゃこの演出は出来ないなぁ、と思う部分も多々。

まず天才!てなったところナンバーワンはトートダンサーに女性がいた点。TDは全身真っ黒で左腕は鱗のようなものに覆われ、右腕に天使の羽を模した袖がついて常にフードを被っているという中性的な衣装だったのでハッキリと性別差が強調されているわけではない。

TDの衣装 これ+フード着用

何が素晴らしかったって、ルドルフに寄り添う時は女性のTDがメインで動くんですよ。ルドルフの母親を求める気持ちに合わせて現れる女性TD。もちろん自殺シーンも誘うのは女性TDたち。ここはマリーの表現ですね。TDに女性が混ざってると気づいた時思わず口を覆いました。本当に素敵な演出。

ぶっちぎりで衝撃的だったのはマジで燃えるアランソン公爵夫人悪夢の身内がバタバタ死んでいく所、ご丁寧に一人ひとり尺が取ってあった。で、アランソン公爵夫人、どうやっているのかわからないが着ているコートが本当に燃えている。燃えたコートを羽織ったまま半狂乱で(結構長いこと)叫びまわり袖にはけていく公爵夫人。恐怖。なんらかの液体がコートにかかっておりきちんと本衣装に燃え移らないようにしてあるだろうし時間も計算の上なことはわかる。しかし恐怖。

トンチキ大賞は闇広です。なんていうのかな、トンチキ。舞台中央のせりの上に立つトートとルドルフ。トートの手には鞭。(多分鞭。東宝版で出てくるのとは違う形。竿みたいだった)一番ではトートが下手側、ルドルフが上手側で揃って下手袖の方を向いて♪闇が広が〜る に合わせて乗馬の動きをする。鞭を取るのはトート。♪がまーんできなーい で鞭を奪い2番で前後交代、自分で馬(概念)に乗るルドルフ。どう?僕ちゃんと乗れてるでしょ!?と嬉しげにトートを振り返るルドルフ。何を、見せられているの。なんというか、「ルドルフがトートに駒として利用されている」というのを表現しようとしているのかな?というのは感じましたが……。♪見過ごすのか からはせりを降りて芝居に戻ります。

うーん、やっぱり文章だと伝わりづらい。こんな時絵が描ければ……。

乗馬シーンは見つからなかったが鞭はインスタに上がっていた。

あと♪僕は今不安で壊れそうだ の部分が抜け落ちてる気がしたんですが、気のせいだったかな。おかわりしようにもチケットがもう全部売れていてできないのが悔しい。あとですね、この2人のキスシーンがなかったんですよ〜〜!マイヤーリンクでちょっとソワソワしてたのに、なかった……ルドルフが自分で頭ぶちぬいておわりだった……どうして……その前のペアダンスはアクロバットもあって凄い良かった……。

微熱のシーンもなかなか。ドクトルゼーブルガー診察する気がない。♪脈は 大丈夫よ 微熱が の部分でシシィの周りをあるいて三周し、フランス病だと診断するゼーブルガー。患者に一切触らずにどうやって診たんだよ。せめて医者を装ってくれ。

ルドルフが(おそらく)ドラッグを打つ描写やルドルフ死後のシシィがタバコを吸っていたのは日本じゃやらない、というか出来ないかなと思った。

それと、ほぼずっと舞台上にルキーニがいるのでルキーニの回想というのは分かり易くなっていたなと思います。定位置は上手端の面。最前だったおかげで顔の動きがバッチリ見えてとても良かった。マイクオフのセリフももちろん聞こえたもののチェコ語なので何を言っているかわからなかったのが残念でした。

多くの他国版で言われているように、日本比でさらに独立したエリザベートという女性が強調されていた。私が踊る時のシシィ、手を差し伸べるトートをガン無視して当て付けのようにその辺のアンサンブルを捕まえて踊ります。いいですねぇ。ラストはトートの口づけを受けた後、抱きしめるトートの腕からするりとぬけて一人面の真ん中に立ち満足気に微笑むシシィで幕。後ろでトートは唖然とした、というか理解し難いといった表情をしていた。ここのトートの解釈は東宝版と同じかな。この部分の演出って分かれるところだと思うんですが、日本とチェコで解釈が共通しているのは面白いです。

 

続いてセットについて。いかに東宝版のセットにお金がかかっているかということがとてもよくわかりました。公演日のくだりでくみ上げとバラシが大変そうと思った、と言ったが完全に杞憂。セット、超・シンプル

このポストがわかりやすい。写真上部にある円形のバトン(でいいのかわからないが照明が吊ってあるので便宜上バトンと呼ぶ)が上下し、座ったり布や看板を吊るしたりして宮殿・教会・カフェなどを表現していた。照明吊ったまま高速で降りてきて場合によっては地面につくし、上にトートは乗るしでけっこうひやひやしました。

他に道具として登場したのはシシィの部屋のドア部分、フランツの執務テーブル、ソファ、バルコニー、器械体操室程度だったかな。あとはシンメトリーになるように白い装飾が袖に置いてあり、天井からもぶら下がっていた。

代わりに大活躍していたのがせり。舞台上を縦横それぞれ4分割してあるせりがフル稼働し舞台を物凄く立体的にみせていた。あっという間に大階段が出来上がったり、波のように舞台が動くシーンもあり迫力満点。ただこの演出はおそらく最前でなおかつ舞台と同じ高さで観たからこその感想かなと思った。舞台から遠く高い位置から観てしまうと立体感が伝わりづらく少々退屈な演出かもしれない。

この辺は公演日数やスパンの関係上仕方ないんでしょう。

 

ちょーっと残念だったのはオケ……。特に金管とキーボード。あちこちでキツそうなところが。トランペットソロの高音でこけるとどうも目立ってしまい、うーん。カテコの際オケピを覗くとかなりの少人数編成で、特に金管はトランペット1トロンボーン1ホルン2のみでした。フルートとアルトサックスが兼任だったりと他にもいろいろ大変そう。

演奏は全体的にアップテンポ。最後のダンスや闇が広がるなんかはロック調のアレンジがかかっていて楽しかった。ギターも入ってました。最後のダンスがより顕著。ラスサビから一気にテンポが上がり、舞台上はトートの独壇場に。日本だと今年リリースされていたアルバム収録の伊礼彼方さんが歌う最後のダンスが近いかもしれません。

楽曲アレンジまでかかるとかっこよさ倍増ですね!それだけにオケはも少し頑張って欲しかったなと思っちゃったり。

 

役者陣は非常に良かったです。

まずシシィ。身長はあまり高くはないものの迫力がある美人。声も見た目に違わず「強い」。歌も素晴らしかった!バズーカ型のシシィってなかなかお目にかかれないじゃないですか。♪私に〜も力強い歌声を保ったまま歌い上げていた。先ほど述べたシシィへの演出も相まってトートにも帝国の運命にも踊らされない力強いシシィだった。

次にトートまず歌がほんっっとうに上手い。めちゃくちゃに上手い。ハイトーンに勢いがあって最高だったし長音も全く勢いが落ちないまま綺麗に音が響き続ける。永遠に聞いていたい。これで28歳らしい。28でこのクオリティなの凄い。トートというキャラクター造形としては、やっぱりシシィ主体なんだなと思わせる部分が多かった。シシィが生み出した死の概念・シシィを翻弄しているようでその実翻弄されているのはトートの方だと感じる面もありました。

ルキーニは歌で作品を推し進めていくような圧倒的な歌唱力ではなかったんですが、これは愛されるルキーニだなと思った。板上に常にいてくるくると表情を変えながら観客をガイドしてくれるので思わず目がいってしまう場面が多かった。

フランツはシシィへの想いの強さがひしひしと伝わってきた。加齢の表現がもうひとつ欲しいなーと思ったり。田代フランツがうますぎるんだよな。余談ですが役者さん本人のお名前もJozefでした。

ゾフィーは完全にビジュアルインパクトに持っていかれましたね。こちらのゾフィー大変恰幅がよろしい。舞台上にいると一発でわかる。私の中のイメージが完全に涼風真世さんだったのですごい衝撃。たしかに、シシィにとっての意地悪な義母という印象は分かり易い。初期の隆盛ぶりが凄い分最期の哀愁が際立っていてよかった。またそこで黒天使に迎えさせわかりやすく死を表すのではなくソロナンバーの後はけていくゾフィーの後ろに静かにトートが付いていたのも良かった。

そしてルドルフ!なんたってルドルフ!子ルド青年ルドそろって今回の私のMVPです!!カテコで顔見た瞬間号泣した。観客の同情を攫うのがべらぼうに上手い。子ルドはシシィに呼びかけ、無視された直後の一瞬の表情があまりにも悲痛で。一瞬で観客の心をもってくのに十分な演技だった。♪今日も猫を殺した で客席から笑いが起こっていたのは謎。ちょいちょいツボの違いを感じるんですよね〜。青年ルドはまず本人の顔だちがすごく若々しい。10代って言われても通じる。(後々調べたら25だった)そもそも退廃的で破滅を連想させるような役柄のルドルフに「希望」「青春感」など喪失させたくないものをうまく取り込んでいた。この子を死なせたくない、どうして死ななくちゃならないんだろうと思わせる演技が印象的だった。

プリンシパルキャストのビジュアルの雰囲気が伝わるポスト

 

カーテンコールはお祭り状態で楽しかった!ルキーニがキッチュ、トートが最後のダンスを追加で歌ってくれて、ルキーニの方は\キッチュ!/のコーレスまであった。最後はキャスト全員でプローローグの♪エリ〜〜ザベート の部分を歌って終了!本当に楽しい公演だった。

11/30プレミアデーのカテコを舞台袖から撮影した動画を発見したので貼っておきます。もちろん歌唱部分もみれるので是非。

 

この公演のお陰で物凄くエリザベート熱が高まりエリザが観たくて仕方ない。もう一枚くらいチケット取っておくんだったと大後悔中です。

日本に帰国してちょうどすぐ博多座公演が開くのでそれまでの辛抱……。でも追加したいのはチェコ版なんだよなーというどうにもならない欲求……。この不思議な中毒性ってなんなんでしょう。

キリがなくなりそうなのでこの辺で、ではまた!

 

 

*1:帝国劇場 ミュージカル『エリザベート』

*2:そんなことは全く無かった

*3:これまでのミュージカルチケット代比較 キャッツ(墺)二階上手見切れ席>アナスタシア(蘭)一階下手後方>TdV(独)一階上手後方>>>>エリザ最前>レミゼ(洪)一階10列目センター どゆこと