霧のブルノエアポート

チェコのブルノを拠点に浴びた芸術などについて記録。

ティボルトはヒーローの夢を見るか?―バレエ『ロミオとジュリエット』ブルノ/ヤナーチェク劇場

ブルノに来て二度目の観劇を済ませてきた。演目は『ロミオとジュリエット』。多くの媒体で楽しむことができる作品のひとつで、ミュージカル版を三月に愛知の刈谷市総合文化センターで鑑賞しているので演目自体は今年二度目。でもバレエという形で観るのは初めてでとても面白かった。劇場は前回同様ヤナーチェク劇場です。

f:id:brno:20191026220231j:image

 

白鳥の湖』の時にチケットがだいたい550円だった!と書いたが、今回なんと50ckz(約235円)だった。すごい!なぜかというと、公演30分前になるとさらに割引が大きくなるらしい。もともと学生は正規料金から50%引きだが、開幕直前は席種にかかわらずすべての席を50ckzで購入できるという仕組み。驚くべき安さ。学生に優しいというレベルではなくなってくる。

そんなわけで座らせてもらったのはなんと一階10列目!

f:id:brno:20191026220242j:image

座席からの見え方

だいぶ下手によってるが、でも近い!!オペラグラスが必要ないくらいめちゃめちゃ近い。この近さ日本でもあまり経験がない。

 

席の良さにテンションをあげつついよいよ開幕。

今回のロミジュリは昨年刷新された新演出とのこと。これが若干現代風の演出になっていると聞いており一瞬謎の頭痛がしたが流石にロミオが既読無視したりキャピュレット邸の舞踏会でミラーボールが回ったり生き残ったベンヴォーリオの後ろでチェキ風写真のスライドショーが行われたりはしなかった。*1

 女性陣、というかキャピュレット側は中世風のドレスではなくて現代のカクテルドレスのような衣装。モンタギューチームはワンピースっぽかったり、ロミオはコートを羽織ってたりと割とカジュアルな感じ。

舞台装置は正面をのぞいた三面にかなり簡素な二階部分が設置されているだけのシンプルなもの。キャピュレット邸のシーンになると上からモダニックなシャンデリア的なもの(蛍光灯でひし形をつくってそれを組み合わせたような形)が下りてくる。ジュリエットの部屋は箱型に作ってあるセットが同じく上から降りてくるんだけど、なんか高級マンションのデザインルームみたいだった。しかも!その箱の縁にあたる部分がLEDネオンで光ってて……既視感……うーん、流行ってるんですかね……。

あとびっくりしたのはジュリエットが薬を飲んだあと前述のシャンデリアが落下してくるんですよ。大丈夫?仮面つけた怪人でてこない?

f:id:brno:20191026220614j:image

撮影OKだったカーテンコール 目を凝らすと後ろの方にシャンデリアが転がっている

他にもキャピュレットボーイズがカラーガードのパフォーマンスをしていたり新鮮に感じる演出が多くあった。この旗がちょっとクローケンハイツを彷彿とさせる柄で複数舞台上に飛んでると威圧感がすごかったです。

 

個人的に印象に残ったのはティボルト。このティボルトはとても孤独だった。

ティボルトといえば、いつもまわりにキャピュレットの皆さんを引き連れて暴れていらっしゃるイメージなんだけど(笑)、今回はキャピュレットの中でもティボルトだけ浮いてるというか、両家の諍いの象徴に仕立てられているように見えた。死んだあとにならないとジュリエットへの恋情がわかりにくかったのもあり、キャピュレットの家に祭り上げられてただロミオたちを憎んでいる、そんなティボルト。一番強くそれを感じたのはマキューシオとの対決のシーン。モンタギュー側の人間は止めようとしたりマキューシオをかばおうと動くのにキャピュレットは上から見ているだけなんですね。ただ一人ティボルトだけがモンタギューに向かっていっていて。それが家名に踊らされているように見えました。マキューシオを刺す時も、それまで見ているだけだったキャピュレット家の一人が「刺せ!」と言わんばかりに上から凶器をよこしてくる。それに操られるままにマキューシオを殺してしまって、続いてロミオをやれとけしかけられて反対に殺されてしまう。

ミュージカル版でティボルトは「本当の俺は違う 復讐の手先なんかなりたくはなかったんだ」と歌うけどこのティボルトはそれが本当の自分の意志でないことにすら気付いていない、孤独なティボルトだった。物心つくまえから憎しみを植え付けられたティボルトに、勇気あふれるヒーローになってドラゴンをやっつけるなんて夢をみることが出来たんだろうか。

なんていろいろ考えてしまった。もともとティボルト贔屓な自覚はあるのだけど、演出や演技により引き込まれた。

 

ちなみにこの舞台には日本人の方も出演している。プリンシパルだとベンヴォーリオとキャピュレット夫人が日本人の方でした。ベンヴォーリオはとにかくかわいい!三人の中でも弟分という感じでひょこひょこした動きに目が離せず、群舞のシーンでもいつのまにか見ていた。キャピュレット夫人は線が細くて美しく、威厳も申し分ない。家と娘への愛で板挟みなのが伝わってくる名演でとても痛ましかった。

 

そして二人の最期の演出が衝撃的。もちろんいい意味で。

ロミオが毒を飲んで、まだそれが回りきっていないうちにジュリエットが目を覚ますんですよ。だからロミオにはまだ意識があって!ジュリエットがロミオに抱きつくのに助かりようがなく目の前で事切れる。そして後を追ってジュリエットも……。という流れ。

こんなパターン初めてだし再会できたのが逆につらくて悲しかった。悲しいけど、すごくいい演出でした。

 

思わずいろいろ語っちゃいました。バレエ版すごく面白かったです。ただちょいちょい演出に目を剥いたのでいつか他のバージョンもみてみたいなとおもいます。

f:id:brno:20191026220916j:image

ではまた!

 

*1:なんのこっちゃな人は「ロミオ&ジュリエット 2019 感想」とかで調べてほしい